生物多様性

生物多様性保全への取り組み

当社グループは自然資本なくして経済や社会の繁栄はないと考え、「住友重機械グループ環境方針」に基づき、環境汚染防止などの環境管理や気候変動対応のなかで生物多様性の保全に向けた取組みを推進しています。
TNFD※1提言に基づき、当社グループの生物多様性・自然資本への依存と影響について分析した結果を報告します。

※1 TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)自然関連財務情報開示タスクフォースは、企業・団体が自身の経済活動による自然環境や生物多様性への影響を評価し情報開示するフレームワークです。

※2 LEAPアプローチは、Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)の4つの頭文字からの造語で、組織の情報開示までのプロセスアプローチ。企業の自然への配慮をリスク管理プロセスに組み込むためのガイダンスとして公表されました。

ENCOREを用いた自然との関わりの把握

当社グループの主要事業と自然とのかかわりについて、分析ツール「ENCORE」※3を用いて分析しました。
4つの事業セグメントからそれぞれ主要な事業を選択し、調達(上流)ではメインとなる原材料に関連するプロセスを、製造(直接操業)では事業プロセスと、製造工程の中で負荷が大きいと思われる複数のプロセスについて分析しました。
※3 ENCOREは、「Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure」の略で、生物多様性と生態系サービスへの依存と影響を評価するための無料のオンラインツールです。企業や金融機関が自然関連リスクを理解するのに役立ちます。


各セグメントの主要事業とENCOREで選択した生産プロセス
セグメント 主要事業 生産プロセス(ENCORE区分) サプライチェーンの段階
メカトロ ギヤモータ・減速機 2591 金属の鍛造、プレス、打ち抜き及び圧延成形業並びに粉末冶金業 調達
2710 電動機、発電機、変圧器、配電及び制御装置製造業 製造
2592 金属の処理・塗装・機械加工業
精密制御・アクチュエータ 2591 金属の鍛造、プレス、打ち抜き及び圧延成形業並びに粉末冶金業 調達
2651 測定、試験、操縦及び制御装置製造業 製造
インダストリアルマシナリー 成形機 2591 金属の鍛造、プレス、打ち抜き及び圧延成形業並びに粉末冶金業 調達
2829 その他の特殊産業用機械製造業 製造
2592 金属の処理・塗装・機械加工業
半導体装置 2591 金属の鍛造、プレス、打ち抜き及び圧延成形業並びに粉末冶金業 調達
2660 照射、電気医療及び電気療法装置製造業 製造
2610 電子部品及び基板製造業
2829 その他の特殊産業用機械製造業
医療機器 2591 金属の鍛造、プレス、打ち抜き及び圧延成形業並びに粉末冶金業 調達
2660 照射、電気医療及び電気療法装置製造業 製造
ロジスティックス&コンストラクション 建機 2591 金属の鍛造、プレス、打ち抜き及び圧延成形業並びに粉末冶金業 調達
2824 鉱業、採石業及び建設業用機械製造業 製造
2592 金属の処理・塗装・機械加工業
エネルギー&ライフライン ボイラー 251 構造用金属製品、タンク、貯槽及び蒸気発生装置製造業 調達
2513 蒸気発生装置製造業 製造

ENCOREでの分析結果

当社グループの主要な事業は、自然への依存はあまり高くないことが分かりました。
一方、自然へのインパクトでは、「有毒な土壌および水質汚染物質の排出」でVery High、「非GHG大気汚染物質の排出」でHighとなりました。
この結果から、水リスクに対する個別分析を行うことにしました。

Aqueductを用いたリスク分析

国内外の製造拠点57か所について、「WORLD RESOURCES INSTITUTE」より提供されている「Aqueduct※4」を用いて水リスク評価を行いました。
※4 Aqueductは、世界資源研究所(WRI)が提供する水リスク評価ツールで、洪水、干ばつ、水不足などのリスクをマッピングでき、企業や政府が水リスクを特定、理解、対処するためのデータプラットフォームです。

水リスク

「Overall water risk」で「Extremely High」となった製造拠点は5か所でした。この5拠点に水使用量の多い国内2拠点を加えた7拠点について、個別調査を行いました。対象の7拠点の2024年度の水使用量は、当社グループ全体の20%でした。

Aqueductによる水リスク評価とは

物理的リスク: 水の供給量や利用可能性に関するリスク
評価項目は「水ストレス(総水需要)」、「洪水リスク(河川)」、「洪水リスク(沿岸部)」
 
物理的リスク(品質): 水の質に関するリスク
評価項目は「未処理排水」、「富栄養化」
 
規制上のリスク: 水資源に関する法律や政策の変更によって、企業や地域の水利用に影響が及ぶ可能性
 
評判リスク: 企業の水利用や管理が社会的な評価やブランドイメージに影響を与える可能性
価項目は「飲料水」、「衛生状態(トイレ)」
 

各拠点の水リスクの評価結果

7拠点の水リスク評価結果は下表のとおり。

水リスクの個別調査結果

水ストレス(総水需要)

・インドネシアの拠点Aについて調査を実施しました。
同拠点地域は工業化による水質汚染と、インフラ未整備による生活用水の確保困難が大きな課題で、インドネシア全体としても、気候変動や森林破壊により持続可能な水管理が急務な状況にありますが、同拠点では近年で渇水による取水制限の発生はありません。水使用量の削減策として、節水ステッカー、地下埋設配管の補修、老朽配管の更新などを実施しています。

・イタリアの拠点B、Cについて調査を実施しました。
地域行政は2023年に「渇水緊急政令」を発表し、水処理インフラの整備加速、貯水池の容量増強、農業排水の再利用、淡水化施設の建設促進、水資源の無駄削減などの対策を進めています。両拠点においては近年で渇水による取水制限の発生はなく、水の利用も従業員サービスのみで使用量も少ない状況です。

・日本の拠点D、Eについて調査を実施しました。
千葉市:現時点での渇水の懸念はないが、都市化による水質の悪化と地下水利用による地盤沈下に懸念があります。
横須賀市:現時点での渇水の懸念はないが、将来的には水源地の保全に懸念があります。
両拠点は水使用量が多い拠点ですが、近年で渇水による取水制限の発生はありません。

・中国のF、Gについて調査を実施しました。
両拠点地域は中国全土でも水資源が非常に乏しく、1976年の大地震後に水供給システムが損傷して深刻な水不足に直面しました。このため、市は包括的な水保全行動計画を策定し、産業分野での鉱山浚渫水の再利用(再利用率80%)、都市中心部での再生水利用(利用率60.08%)などの施策により、現在では大幅な水不足は改善しています。両拠点においては近年で渇水による取水制限の発生はなく、削減策としてドライ式塗装ブースの改造、水メーター監視による漏水の早期発見などを実施しています。

物理的リスク(量);洪水リスク(河川)

・インドネシアの拠点Aについて調査を実施しました。
Aqueductのリスク流域であるシタルム川は、同拠点から直線距離で約9㎞に位置していますが、川との高低差は80~100mありました。また洪水対策の1つとして、排水システムと大雨時の雨水を収容するための人工湖の建設が行われている工業地域に位置することから、同拠点の洪水のリスクは小さいと言えます。

・中国の拠点F、拠点Gについて調査を実施しました。
Aqueductのリスク流域であるZiya川は、両拠点から直線距離で約9kmに位置していて、川との高低差は6m程度と小さくほぼ平坦でした。中国政府発行の両拠点地域のハザードマップはありませんが、2007年の工場設立以来洪水の発生はなく、リスクは小さいと言えます。

物理的リスク(量);洪水リスク(沿岸部)

・日本の拠点D、拠点Eについて調査を実施しました。
拠点Dは、海岸から直線距離で8.5㎞、海抜26mに所在しています。千葉市の風水害ハザードマップでも浸水想定区域ではないため、同拠点の洪水リスクは小さいと言えます。
・拠点Eは沿岸部の海抜2.3~2.6mに位置しており、同拠点は神奈川県の高潮浸水想定区域で0.3~3mとされています。敷地南北の沿岸には防波堤の設置があり、一部の建屋入口には止水板の設置がありました。津波を想定した防災訓練を定期的に実施しており、リスクへの対処が準備されていました。

・中国の拠点F、拠点Gについて調査を実施しました。
両拠点は海抜24mに所在し、Aqueductでのリスク港湾であるTanjin Xingangは、直線距離で約100kmの位置にあります。中国政府発行の両拠点地域のハザードマップはありませんが、2007年の工場設立以来洪水の発生はないため、リスクは小さいと言えます。

物理的リスク(品質);未処理排水

・中国の拠点F、拠点Gについて調査を実施しました。
拠点Fのプロセス廃水は、機械加工過程で発生する切削液と洗浄剤です。これらは有害廃棄物として資格を持つ産業廃棄物処理業者に引渡されて処理されるため、未処理の状態で拠点から排水されることはなく、未処理排水のリスクは小さいと言えます。

拠点Gのプロセス廃水は排水処理施設で処理された後、工業団地の産業排水管網に排出されます。その後、管網を通じて都市の下水処理場で再処理されるため、未処理排水のリスクは小さいと言えます。

物理的リスク(品質);富栄養化

・イタリアの拠点B、拠点Cについて調査を実施しました。
両拠点とも水処理施設の設置はありませんが、プロセスからの排水はなく、生活排水のみを下水に放流していました。そのため富栄養化のリスクは低いと言えます。

・日本の拠点D、拠点Eについて調査を実施しました。
拠点Dには水処理施設の設置はありませんが、下水に放流されていました。そのため富栄養化のリスクは低いと言えます。

・拠点Eは水処理施設を経由して海洋に放流していますが、放流先の東京湾は総量規制の対象になっているため、自動計測で排水基準*に準拠した監視がされていました。これらのことから富栄養化のリスクへの対処が準備されていると言えます。
*:水質汚濁防止法、神奈川県生活環境の保全等に関する条例に基づく排水基準

規制上のリスク・評判リスク;飲料水

・インドネシアの拠点Aについて調査を実施しました。
同拠点では、飲用ニーズのためにミネラルウォーターを提供しています。ディスペンサー用のガロン容器の他、会議やゲスト用ではペットボトルで提供されます。
生産(塗装)および衛生目的のための水は工業団地から供給され、地上タンクに貯蔵されます。
飲料水用のボトル入りミネラルウォーターと工業団地から供給される水は分析を行い、安全で使用に適している品質しきい値内であることを確認しています。そのため飲料水のリスクへの対処が準備されていると言えます。

規制上のリスク・評判リスク;衛生状態(トイレ)

・中国の拠点F、拠点Gについて調査を実施しました。
両拠点とも上水を使用し、トイレの形式は水洗でした。排水は浄化槽を経由して下水に放流されているため、衛生状態は良好と言えます。

・インドネシアの拠点Aについて調査を実施しました。
同拠点では工業団地から供給される水を使用し、トイレの形式は水洗でした。排水は閉鎖式排水システムから沈殿槽を経由して工業団地の排水処理施設(WWTP)で処理されてから、河川に放流しています。そのため、衛生状態は良好と言えます。

個別調査結果のまとめと今後の予定

個別調査結果のまとめ

対象の7拠点について、拠点ヒアリングと現地確認による個別調査を実施した結果、いずれの拠点も水リスクは小さい、または水リスクへの対処が準備、運用されていることがわかりました。
個別調査後のAqueductの評価結果は下表のとおりです。

今後の予定

「Overall water risk」で「High」以下の拠点についても個別調査を継続して、全製造拠点の水リスクの把握を進めます。