お知らせ

液体ヘリウムを使用しないハイブリッドマグネットで世界最高磁場を達成

2005年04月27日

東北大学金属材料研究所の渡辺和雄教授の研究グループは、住友重機械工業株式会社(社長 日納義郎)との共同研究において、液体ヘリウムを使用しない無冷媒型ハイブリッドマグネットでは世界最高となる、27.5T(テスラ:注1)の強磁場の発生を達成しました。今回の記録達成により、これまでの無冷媒型ハイブリッドマグネットでは磁気浮上させることができなかった半導体素材の浮上が可能となり、新しい材料開発などへの貢献が期待できます。

ハイブリッドマグネットは、超伝導マグネットの内側に水冷銅マグネット(注2)を配置し、2つの相乗効果を引き出したマグネットです。無冷媒型とは、超伝導を発生させるのに液体ヘリウムを使用しない構造のものをいい、今回使用したものは、東北大金研と住重の製品を組み合わせた独自の装置です。

■ハイブリッドマグネットの特長
ハイブリッドマグネットは、強磁場発生の際に内側の水冷銅マグネットがそのマグネットの縁付近に強い磁場勾配を作ることができるため、超伝導マグネット単体では実現できないような大きな磁気浮上力を生み出すことができます。

■無冷媒型超伝導マグネットの特長
通常の超伝導マグネットは、超伝導を発生させるのに膨大な量の液体ヘリウムが必要です。液体ヘリウムは高価なこと、蒸発しやすいために扱いが難しいということがあり、一定磁場を長時間保持するにはそれらがネックになります。これに対して、無冷媒型ハイブリッドマグネットは、超伝導の発生に液体ヘリウムを一切使用しないため、時間的な制約にとらわれず、強磁場を活用する材料開発に非常に有効です。また、液体ヘリウムの供給設備も不要となり、装置もコンパクトにできます。

■今回の成果と意味
東北大学の研究グループと住友重機械工業は、世界初の無冷媒型ハイブリッドマグネットの開発を数年前から始めており、これまでに22.7Tの磁場発生を実現していましたが、新しい超伝導線材の開発などにより、今回、この記録を大きく更新(27.5T)することに成功しました。通常の液体ヘリウムを使用するタイプのものでは、さらに大きな磁場を発生させることができますが、液体ヘリウムを使用しないタイプのものとしては最高記録になります。

強磁場を用いると、ガラスやプラスチックなどのように通常は磁場に応答しない非常に小さな磁化率を持つ反磁性体などの物質を、重力に逆らって浮上させる磁気浮上が可能になります。今回開発した無冷媒型ハイブリッドマグネットで、これまで実現できなかったInSb半導体(注3)の浮上実験に成功しました。
物体を浮上させると、重力の影響を排除することができ、磁場中での熱処理で粒子の向きを統一するなど、重力下では困難な処理も容易にできます。また、物質の溶融にるつぼが不要となり、不純物の混入を防ぐことができます。今後、半導体などの磁気浮上溶解実験へと研究を進め、液体ヘリウムを一切必要としない磁気浮上による材料開発などへの適用が期待できます。

■成果 その2
超伝導線材の強度を高めるために、細い線径のままで大きな電磁力に耐えられる高強度ニオブ3スズ極細多芯線材を開発しました。極低温下での臨界電流密度は1,000A/cm2を超えます。材料自体の機械的な強度が低く、脆いため、線材を強化しないと断線や品質劣化が発生します。Cu-Nb(銅・ニオブ)やCu-Nb-Ti(銅・ニオブ・チタン)によって内部補強をすることで必要強度を達成、これにより、線材に特別な補強をする必要が無くなり、装置の小型軽量化を実現しました。



■用語説明
注1:テスラ
磁力を表す単位。1テスラ=1万ガウス。
地磁気は0.5ガウスで、1テスラは地磁気の2万倍にあたります。
<今回の実験条件>
1.無冷媒型超伝導マグネットとして単体では、室温ボア(直径360mm)の中心に9.5Tの定常磁場発生を確認。
2.安全性のため8.5Tまで磁場を下げて、内側に水冷銅マグネットを組み合わせたハイブリッドマグネットモードでの試験を実施。
3.水冷銅マグネットを定格磁場まで磁場掃引すると、大口径無冷媒型超伝導マグネットの磁場が8.5T、水冷銅マグネットの磁場が19.0T、合計で27.5Tが室温実験ボア(直径32mm)の中心に得られました。発生磁場は、ホール素子によって実験ボアの縦方向に測定されています。磁場分布から磁気力場が計算され、4,500T2/mが得られることが分かりました。
4.室温からの初期冷却は約207時間で4K以下まで冷却重量3200kgを冷却しました。コイルの最低温度は3Kまで4台のGM冷凍機によって冷却されています。これまでの液体ヘリウムを使用したものでは、総冷却重量4,700kgの30Tハイブリッドマグネット用12T超伝導マグネットを1台のヘリウム液化機によって5Kまで80hをかけて初期冷却を実施し、その後に500Lの液体ヘリウムを4時間かけて注液し、4.2Kまでの初期冷却を完了させていました。小型冷凍機のため、冷却時間は2倍以上になっていますが、人手のかかる作業が、4KのGM冷凍機によって無人運転ですべて行えました。

注2:水冷銅マグネット
銅合金を導体とする常伝導のマグネットです。コイルに電流を流すことでジュール発熱(電気抵抗による発熱)が発生するので、水で冷却しながら運転します。また、水冷銅のコイルは寿命があり、ある程度の使用により、交換が必要となります。

注3:InSb(インジウム・アンチモン)
インジウムの化合物。
インジウム化合物は重要な半導体材料です。ケイ素やゲルマニウムの電気の流れをよくするために、少量のインジウムが混入されます。インジウム化合物にはインジウム・アンチモン、インジウムヒ素、インジウムリンなどがあり、化合物半導体材料として、研究が進められています。

無冷媒型ハイブリッドマグネット