世界初、上下配置式小型陽子線がん治療設備を受注
2010年08月18日
住友重機械工業株式会社(社長 中村 吉伸/以下、住友重機械)は、長野県の社会医療法人財団慈泉会相澤病院(院長 相澤孝夫/以下、相澤病院)から甲信地区で初となる陽子線がん治療設備を受注しました。
今回、受注した陽子線がん治療設備は、回転ガントリ照射装置を従来よりも小型化し、世界で初めて、回転ガントリ照射装置とサイクロトロンを上下に配置しました。これにより施設の大幅な省スペース化を実現し、都市部など敷地面積に制限のある場所にも設置が可能となり、今後の陽子線がん治療設備のモデルになることが期待されます。
陽子線治療は、水素の原子核である陽子を高エネルギーに加速させ、がん細胞のみに集中的に照射する放射線治療法の一種です。がん細胞周囲の正常な細胞に悪影響を与えないため、副作用の少ない治療が可能です。外科手術と異なり、体に優しく、通院治療が可能ながん治療法として、世界中で脚光を浴びています。
相澤病院(病床数496)は、創設100年を超える歴史を有し、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院などの指定を受け、長野県中信地区の中核病院として急性期医療を担っています。また、先進医療への熱心な取り組みも、注目されています。
住友重機械はこれまで30年以上にわたり、陽子線がん治療設備の研究・開発を続けてまいりました。1997年に、日本初、世界でも2番目となる病院設置型の陽子線がん治療設備を、国立がんセンター東病院(現国立がん研究センター東病院)に納入しました。その後、海外への営業展開により台湾など2件受注し、今回で4件目の受注となります。住友重機械は、今回の新しいコンセプトの陽子線がん治療設備により、陽子線によるがん治療の全世界への普及に貢献してまいります。
1.陽子線治療の特徴
陽子線は荷電粒子線の一つで、水素の原子核である陽子を加速することで得られる放射線です。人体に照射した場合、一定深さで急激にエネルギーを放出(「ブラッグピーク」と言います。)し消滅するという、放射線治療として一般的に使われるX線にはない物理特性があります。ブラッグピークの深さや幅を調整することにより、周囲の正常細胞に悪影響を与えずにがん細胞のみに最大の放射線を照射することが可能です。例えば、脳、心臓、腸管系臓器などの重要臓器に近接するがん細胞にも十分な線量を投与できるとともに副作用の少ない治療が可能です。
2.陽子線治療がん治療設備について
【加速器】
がん治療専用のサイクトロン(※1)により、陽子はエネルギー230MeV (※2)まで加速されます。
【ビーム輸送装置】
サイクロトロンで生成し、加速された陽子線を患者毎に必要なエネルギー量に調整して回転ガントリ照射装置まで運びます。
【回転ガントリ照射装置】
回転ガントリの使用により、患者に苦しい姿勢を強いることなく、陽子線を360度任意の角度から標的がん細胞に照射します。患者位置決め装置、照射ノズル、寝台を備えており、回転ガントリを通過した陽子線は照射ノズルで腫瘍患部に適した形状に成形され、患部に照射されます。
(※1) サイクロトロン
円形加速器の一種。水素の原子核である陽子を光速の70%程度まで加速し、透過力の大きい陽子線を発生させます。他の加速器よりも高強度かつ連続的なビーム特性を持つため、肺や肝臓等の呼吸性臓器への照射の適応性に優れ、治療時間の短縮や治療回数の低減を実現させる能力を有します。
(※2) MeV(Mega Electron Volts)
eV(Electron Volt, 電子ボルト)はエネルギーの単位の一つ。100万eVが1MeVに相当。