2015年04月15日

住友重機械工業株式会社（社長　別川俊介／以下、住友重機械）は、グリーンホスピタルサプライ株式会社（社長　小川宏隆）と奈良県天理市の社会医療法人高清会高井病院（理事長　高井重郎／以下、高井病院）向け陽子線治療システムの納入に係る契約を締結しました。

今回、受注した陽子線治療システムは、回転ガントリ照射装置１台（１治療室）を有し、サイクロトロンと上下に配置するシステム（以下、上下配置式陽子線治療システム：特許第5373220号、特許第5437527号）として、国内３例目の設置となります。この上下配置式陽子線治療システムの採用により、必要な設置面積が節減され、高井病院にて計画中の敷地への設置が可能となり、既存建物内の放射線診断機器や放射線治療装置との連携性に優れた施設配置を実現します。照射機構としては多目的照射ノズル（特許第05107113号）を採用し、豊富な臨床実績と信頼性を有する拡大ビーム法（ワブラー法）と最先端の照射方法であるスキャニング照射法のそれぞれの特性を生かして対象疾患に応じた使い分けを行うことが可能です。

陽子線治療は、水素の原子核である陽子を高エネルギーに加速させ、がん細胞のみに集中的に照射する放射線治療法の一種です。がん細胞周囲の正常な細胞に対するダメージを抑えることが可能なため、副作用の少ない治療が可能です。外科手術と異なり、体に優しく、通院治療が可能ながん治療法として、世界中で注目を集めています。頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、食道がん、前立腺がん等の疾患に対して多くの治療実績が報告されています。

社会医療法人高清会は、高井病院、香芝旭ヶ丘病院（奈良県香芝市）を運営するとともに、２０１４年春からは天理市立メディカルセンターの指定管理者として、地域医療に大きく貢献しています。高井病院においては放射線診断、放射線治療の両分野を始めとして先進医療機器の導入に積極的であり、陽子線治療施設計画は２０１４年８月の新病棟開業後の次なる重要プロジェクトとして位置付けられています。

今回の高井病院向けシステムは住友重機械の陽子線治療システムとしては７施設目の受注となります。日本初（世界２番目）の病院設置型陽子線治療施設である国立がんセンター東病院（現国立がん研究センター東病院）では１９９８年から１６年以上に渡り、安定稼働を継続しています。２０１４年秋からは社会医療法人財団慈泉会相澤病院にて、２０１５年後半からは台湾・長庚紀念病院、韓国・サムスンメディカルセンターにおいて治療が開始される予定であり、その他の施設においても納入に向けた準備を進めているところです。住友重機械は引き続き、納入先病院と協力して陽子線によるがん治療の全世界への普及に貢献してまいります。

１．陽子線治療の特徴

陽子線は荷電粒子線の一つで、水素の原子核である陽子を加速することで得られる放射線です。人体に照射した場合、一定深さで急激にエネルギーを放出（「ブラッグピーク」と言います。）し消滅するという、放射線治療として一般的に使われるＸ線にはない物理特性があります。ブラッグピークの深さや幅を調整することにより、周囲の正常細胞に悪影響を与えずにがん細胞のみに最大の放射線を照射することが可能です。例えば、脳、心臓、腸管系臓器などの重要臓器に近接するがん細胞にも十分な線量を投与できるとともに副作用の少ない治療が可能です。

２．陽子線治療システムについて

【加速器】
がん治療専用のサイクトロン(※1)により、陽子はエネルギー230MeV (※2)まで加速されます。

【ビーム輸送装置】
サイクロトロンで生成し、加速された陽子線を患者毎に必要なエネルギー量に調整して回転ガントリ照射装置まで運びます。

【回転ガントリ照射装置】
回転ガントリにより、患者に苦しい姿勢を強いることなく、陽子線を360度任意の角度から標的がん細胞に照射します。患者位置決め装置、照射ノズル、寝台を備えており、回転ガントリを通過した陽子線は照射ノズルで腫瘍患部に適した形状に成形され、患部に照射されます。

【上下配置式陽子線治療システム】
サイクロトロンを下層階、回転ガントリ照射装置を上層階に配置し、垂直ビームラインにより結ぶ構造とすることにより、必要敷地面積を節減します。

(※1) サイクロトロン
円形加速器の一種。水素の原子核である陽子を光速の７０％程度まで加速し、透過力の大きい陽子線を発生させます。他の加速器よりも高強度かつ連続的なビーム特性を持つため、肺や肝臓等の呼吸性移動臓器への照射の適応性に優れ、治療時間の短縮や治療回数の低減を実現させる能力を有します。

(※2) MeV（Mega Electron Volts）
eV（Electron Volt, 電子ボルト）はエネルギーの単位の一つ。100万eVが1MeVに相当。