加速器BNCTによる頭頸部癌を対象とした第II相臨床試験開始のお知らせ
2016年07月14日
住友重機械工業株式会社(本社:東京都品川区、社長:別川俊介、以下「住友重機械」)は、技術開発を進めてきたBNCT用加速器(BNCT治療システム「BNCT30」)とステラファーマ株式会社(本社:大阪市中央区、社長:浅野智之、以下「ステラファーマ」)が開発を進めてきたBNCT用ホウ素薬剤「SPM-011」を用いた世界初となるホウ素中性子捕捉療法(以下「BNCT」)による頭頸部癌患者を対象とした国内第I相臨床試験におきまして、安全性および忍容性を検討してまいりました。その試験結果を受けて、このたび頭頸部癌患者を対象とした加速器BNCTによる国内第II相臨床試験(以下「本治験」)を実施することになりましたことを発表いたします。
本治験は、切除不能な局所進行頭頸部癌患者21例を対象として有効性を検討するとともに、第I相臨床試験に引き続き、加速器BNCTの安全性を検討していくものであり、2016年6月に治験届を提出しています。
2016年2月に開始した再発悪性神経膠腫の第Ⅱ相試験に加え、本治験を進めることで、少しでも早く、安全かつ有効な治療法を皆様にお届けできるよう承認取得、上市を目指してまいります。そして、将来的にはBNCTの対象疾患拡大の可能性に関しさらに検討を進め、より多くの人に利用していただける治療法として、BNCTの普及拡大に貢献していきたいと考えています。
<補足情報>
【頭頸部(とうけいぶ)癌(がん)患者を対象とした第Ⅱ相臨床試験概要】
本治験は、頭頸部癌の中で、手術による切除が困難な患者を対象とした第Ⅱ相試験で、すでに標準的な放射線治療や化学療法を受けられた頭頸部癌患者21例を対象に計画しています。本治験では、2014年に開始した頭頸部癌患者を対象とした第Ⅰ相試験で、安全性と忍容性が確認できた最大線量にて、BNCTの有効性と安全性を確認する計画です。
【頭頸部と頭頸部癌】
頭頸部とは、脳の下側の顔面から鎖骨までの部分を示します。頭頸部癌とは、この範囲に含まれる、鼻、口、のど、上あご、下あご、耳などにできる癌のことです。頭頸部癌は、すべての癌の5%程度と考えられており、癌が発生する部位の種類が多く、発生原因、治療法、予後が異なることが特徴とされています。頭頸部には人間が生きる上で必要な器官が集中しており、その機能を温存できる治療法の確立が求められています。
【BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)について】
BNCTは、ガンの放射線治療の一種であり、その治療法は、ガン患者にBNCT用ホウ素薬剤を投与することで、ガン細胞内にホウ素(Boron-10)を選択的に取り込ませ、体外からエネルギーの低い中性子を照射するというものです。このとき、体内ではホウ素(Boron-10)原子核が中性子を捕獲して核分裂反応(10B(n,α)7Li)を起こし、この核反応により細胞にダメージを与えるエネルギーをもつα粒子(ヘリウム原子核)とLi 反跳核(リチウム原子核)が放出されます。これらの荷電粒子は、体内ではそれぞれ約9μmおよび約5μmの飛程しか持たず、この飛程はおよそ細胞1個分の大きさに相当します。これらの特徴により、理論的には、周囲の正常な細胞等をほとんど傷つけることなく、ホウ素(Boron-10)を取り込んだガン細胞を細胞レベルで選択的に破壊することが可能となります。
【ホウ素の同位体濃縮技術とBNCT用ホウ素薬剤「SPM-011」】
自然界に存在するホウ素は質量数10のBoron-10と質量数11のBoron-11が安定に存在し、Boron-10は、約20%しか含まれていません。BNCTでガン細胞を破壊するために利用する中性子による核分裂反応は、Boron-10のみが起こす反応であり、Boron-11では、この反応は起こりません。 ホウ素の同位体濃縮技術は、このBoron-10のみを高濃度に分離・濃縮するものであり、国内では、ステラケミファ株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役 会長:深田純子、以下「ステラケミファ」のみが保有しているBNCTの成功に不可欠な技術です。
このホウ素の同位体濃縮技術を基に、ステラケミファは、BNCT用ホウ素薬剤の研究開発を進めました。その後、本研究開発が一定の成果を達成した事を受け、ステラケミファは2007年にステラファーマを設立し、同社は、第一種医薬品製造販売業の認可を受け、現在、本治験を実施するとともに、BNCT用ホウ素薬剤「SPM-011」の薬事承認を目指しています。
【BNCT用加速器(BNCT治療システム「BNCT30」)】
BNCTの実施を原子炉以外に広める取組みとして、小型中性子発生装置の開発が必要になるところ、この点につきましては、放射線治療機器で実績のある住友重機械工業株式会社と、原子炉でのBNCTで実績がある京都大学原子炉実験所(所在:大阪府泉南郡熊取町、所長:川端祐司)との連携に加え、ステラケミファも共同開発に参画した結果、世界初のBNCT用加速器(BNCT治療システム「BNCT30」)の開発に成功しました。
現在、本BNCT治療システムは、京都大学原子炉実験所および一般財団法人脳神経疾患研究所 附属 南東北BNCT研究センター(所在:福島県郡山市、理事長:渡邉一夫)の国内2か所に設置されており、ステラファーマのBNCT用ホウ素薬剤「SPM-011」と合わせて薬事承認を目指しています。