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陽子線ラインスキャニング照射法の米国FDA承認取得

2016年08月31日

住友重機械工業株式会社(社長 別川俊介/以下、住友重機械)は、陽子線治療システム(以下、本システム)によるラインスキャニング照射法が米国FDA (Food and Drug Administration: 食品医薬品局)・510(k)承認を取得しましたことを報告します。

陽子線治療*1のスキャニング照射法は細いビームを標的がん組織の形状に合わせて三次元的に照射する手法であり、従来の一般的照射法である拡大ビーム照射法*2 と比較して、より複雑な形状のがんの治療を実現し、周囲の正常組織への照射線量を抑えることが期待されています。また、拡大ビーム照射法において患者毎に製作するビーム成形器具(ボーラス及びコリメータ)が不要となり、治療準備作業やランニングコストの大幅な低減に寄与します。住友重機械の陽子線治療システムは、陽子線発生装置として、連続かつ高線量率ビームを安定して発生させることが可能なサイクロトロン*3 を使用し、スキャニング照射法に対する優れた適応性を有しています。この特性を生かしてスキャニング手法としてラインスキャニング照射法、すなわち、ビームの走査速度を変調させつつ、連続的に(一筆書き状に)照射する手法を採用しており、ビームを断続的に照射するスポットスキャニング照射法*4などの他スキャニング手法と比較して照射時間の短縮が見込まれます。

現在、スキャニング照射法及び、その応用形であるIMPT (Intensity Modulated Proton Therapy: 強度変調陽子線治療)に対して、多くの放射線腫瘍医より臨床活用への期待が高まっています。ラインスキャニング照射法ではその照射時間が短いという特徴を生かして、IMPTはもとより、肺や肝臓などの呼吸移動性臓器への適用が期待されています。

ラインスキャニング照射法による治療は昨年10月に国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)において世界で初めて開始され、続いて本年に入り、社会医療法人財団慈泉会相澤病院(長野県松本市)及びサムスンメディカルセンター(韓国・ソウル)にても開始され、前立腺がん、頭頸部がん、小児腫瘍などの治療に適用されています。住友重機械は今回のFDA承認取得により米国市場におけるこの先進技術の積極展開を進めてまいります。

住友重機械はこれまで40年以上に渡り、サイクロトロン等、加速器の医療分野での利用に関する研究・開発・機器納入を続けてきました。陽子線治療システムは1997年に国内初(世界で2番目)となる病院設置型システムを国立がん研究センター東病院に納入したことを皮切りに、現在までに日本、台湾、韓国の7施設に納入(または納入予定)しました。引き続き、納入先施設と協力のうえ、陽子線によるがん治療の全世界への普及に貢献してまいります。

*1 陽子線治療:
陽子線は荷電粒子線の一つで、水素の原子核である陽子を高エネルギーに加速することで得られる放射線です。陽子線を人体に照射した場合、一定深さで急激にエネルギーを放出(「ブラッグピーク」と言います。)し消滅するという、一般的な放射線治療で使われるX線にはない物理特性があります。陽子線治療は放射線治療の一種であり、このブラッグピークの深さや幅を調整することにより、近接する重要臓器(脳、心臓、腸管系臓器など)や周囲の正常組織に悪影響を与えずにがん組織のみに十分な線量を投与することで、副作用の少ない治療が可能です。一般的な外科手術と異なり、体に優しく、通院治療が可能ながん治療法として、世界中で脚光を浴びています。これまでに、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、食道がん、前立腺がん等の疾患に対して多くの治療実績が報告されています。

*2 サイクロトロン:
円形加速器の一種。水素の原子核である陽子を光速の60%程度まで加速し、透過力の大きい陽子線を発生させます。他方式の加速器よりも高線量かつ連続的なビームを安定に発生させることが可能であり、ラインスキャニングへの優れた適応性、肺や肝臓等の呼吸で動く臓器への照射の適応性に優れ、治療時間の短縮や治療回数の低減を実現させる能力を有します。

*3 拡大ビーム照射法:
陽子線発生装置から発生されたビーム径を大きく広げた上で、患者毎に製作するビーム成形器具(コリメータ及びボーラス)を使用して、標的がん組織の形状にビームを成形して照射する方法です。

*4 スポットスキャニング照射法:
スキャニング手法の一つであり、患部を数千の微少領域に分割し、最深部の層から小さな点状のビームで照射位置を逐次変えながら層全体に対し均一的な照射を行う方式です。