高清会陽子線治療センターにおける陽子線ラインスキャニングによる治療開始
2019年03月20日
住友重機械工業株式会社(社長 別川俊介/以下、住友重機械)が奈良県天理市の社会医療法人高清会(理事長・院長 高井重郎/以下、高清会)に納入した陽子線治療*1システム(以下、本システム)により、1月7日に陽子線ラインスキャニング照射法*2(以下、ラインスキャニング)による患者への治療が開始されたことをお知らせいたします。これで住友重機械の納入全7施設においてラインスキャニングによる陽子線治療が開始されたことになります。
本システムは、回転ガントリ照射装置1台(1治療室)を有し、サイクロトロン*3と治療室を上下に配置するシステム(以下、上下配置式陽子線治療システム)として、国内3例目の施設です。この上下配置式陽子線治療システムの採用により、必要な設置面積が節減され、25m×25m程度の狭隘な敷地に設置することで、既存放射線診断・治療エリアとの連携性に優れたレイアウトを実現し、既設のリニアックとの一体的運営が行えるように設計されています。照射機構としては多目的照射ノズルを採用し、豊富な臨床実績と信頼性を有する拡大ビーム法*4(ワブラー法)と最先端の照射方法であるラインスキャニングをそれぞれの特性を生かして対象疾患に応じた使い分けを行うことが可能です。また、画像誘導システムとして、治療室内に設置された自走式X線CT装置との組合せにより3次元画像照合による高精度位置決めが可能となっています。高清会では昨年9月13日より拡大ビーム法による治療を開始しました。
スキャニング照射法は細いビームを標的がん組織の形状に合わせて三次元的に照射する手法であり、従来の一般的照射法である拡大ビーム照射法と比較して、より複雑な形状のがんの治療を実現し、周囲の正常組織への照射線量を抑えることが期待されています。また、拡大ビーム照射法において患者ごとに製作するビーム成形器具(ボーラス及びコリメータ)が不要となり、治療準備作業やランニングコストの大幅な低減に寄与します。住友重機械はスキャニング手法としてラインスキャニングを採用しており、2015年10月の治療開始以来、その治療数は飛躍的に増加し、現在までに累計2,000名以上の治療が行われています。
高清会陽子線治療センター・吉村均センター長は、治療開始にあたり以下のように述べました。「高清会では奈良県内の他施設に先駆け、CT、MRI、PET等の放射線診断やガンマナイフ、リニアック等の放射線治療を導入し、がんの診断から治療までの一貫した対応を行い、地域のがん医療に貢献してきました。陽子線治療は先行施設において、頭頸部、肺、肝臓、前立腺、小児腫瘍などの様々ながんに対して優れた臨床成績を残してきています。その進化形としてラインスキャニングは最重要な技術であり、当センターにおいても今回開始した前立腺癌に加えて、頭頸部癌などへの適応拡大を行う所存です。」
<社会医療法人高清会について>
社会医療法人高清会は1920年設立の高井医院を母体とし、高井病院(奈良県天理市、376床)、香芝旭ヶ丘病院(奈良県香芝市、99床)を運営するとともに、2014年春からは天理市立メディカルセンターの指定管理者として、地域医療に大きく貢献しています。高清会陽子線治療センターでは、放射線腫瘍医のみならず、外科や内科を交えた集学的な陽子線治療を提供する体制を有すると共に、奈良県立医科大学との臨床や技術に関する密接な連携により優れた治療を提供します。
<住友重機械工業の医療分野について>
住友重機械工業はこれまで40年以上に渡り、サイクロトロン等、加速器の医療分野での利用に関する研究・開発・機器納入を続けてきました。陽子線治療システムは1997年に国内初(世界で2番目)となる病院設置型システムを国立がん研究センター東病院に納入以降、現在までに日本、台湾、韓国の7施設に納入しました。引き続き、納入先施設と協力のうえ、陽子線によるがん治療の全世界への普及に貢献してまいります。
*1 陽子線治療:
陽子線は荷電粒子線の一つで、水素の原子核である陽子を高エネルギーに加速することで得られる放射線です。陽子線を人体に照射した場合、一定深さで急激にエネルギーを放出(「ブラッグピーク」と言います。)し消滅するという、一般的な放射線治療で使われるX線にはない物理特性があります。陽子線治療は放射線治療の一種であり、このブラッグピークの深さや幅を調整することにより、近接する重要臓器(脳、心臓、腸管系臓器など)や周囲の正常組織に悪影響を与えずにがん組織のみに十分な線量を投与することで、副作用の少ない治療が可能です。一般的な外科手術と異なり、体に優しく、通院治療が可能ながん治療法として、世界中で脚光を浴びています。これまでに、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、食道がん、前立腺がん等の疾患に対して多くの治療実績が報告されています。
*2 ラインスキャニング照射法:
スキャニング手法の一つであり、ビームの走査速度を変調させつつ、連続的に(一筆書き状に)照射する手法です。ビームを断続的に照射するスポットスキャニング照射法*5などの他スキャニング手法と比較して照射時間の短縮が見込まれます。
*3 サイクロトロン:
円形加速器の一種。水素の原子核である陽子を光速の60%程度まで加速し、透過力の大きい陽子線を発生させます。他方式の加速器よりも高線量かつ連続的なビームを安定に発生させることが可能であり、ラインスキャニングへの優れた適応性、肺や肝臓等の呼吸で動く臓器への照射の適応性に優れ、治療時間の短縮や治療回数の低減を実現させる能力を有します。
*4 拡大ビーム照射法:
陽子線発生装置から発生されたビーム径を大きく広げた上で、患者毎に製作するビーム成形器具(コリメータ及びボーラス)を使用して、標的がん組織の形状にビームを成形して照射する方法です。
*5 スポットスキャニング照射法:
スキャニング手法の一つであり、患部を数千の微少領域に分割し、最深部の層から小さな点状のビームで照射位置を逐次変えながら層全体に対し均一的な照射を行う方式です。