次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」実証機製作に着手— より高度な治療を実現するマルチイオン源の開発に成功 —
2022年05月23日
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長: 平野俊夫、以下「量研」という。)と住友重機械工業株式会社(代表取締役社長: 下村真司、 以下「住友重機械」という。)は、2016年から次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」の要素技術開発を実施してきましたが、今回、現在の炭素イオンビームを用いた重粒子線治療を高度化して、ネオン、酸素、ヘリウムといった複数のイオンによるマルチイオン治療を可能とする、マルチイオン源の開発に世界で初めて成功しました。
従来の重粒子線治療装置では炭素イオンのみを用いていますが、量子メスでは細胞殺傷効果をさらに高めつつも副作用を低減するために、腫瘍の悪性度に応じて最適な種類のイオンビームを組み合わせて用いるマルチイオン治療を導入します。量研と住友重機械は、量子メスの入射器部分となるマルチイオン源を開発し、量研にある重粒子線治療装置(HIMAC)に設置しました。このイオン源は、ヘリウムからネオンまでの複数の多価イオンを出力するとともに、イオン種を1分以内で高速に切り替えることができます。また、普及を見据えて病院に設置できるように、永久磁石と半導体マイクロ波増幅器を採用することで小型化かつメンテナンスフリー化を実現しました。この装置の開発成功により、より効果の高い重粒子線がん治療の実現が大きく前進することとなります。
量研は、本成果によって完成したマルチイオン源をHIMACに設置・接続してマルチイオン治療の臨床研究を進めるとともに、マルチイオン源を備えた量子メス実証機を設置するための専用建屋(量子メス棟「仮称」)の建設を量研千葉地区において2023年より開始する予定です。量研は、量子メスの早期の実用化を目指して着実に開発を進めていきます。