次世代陽子線治療システムの開発に成功 — 動く臓器をより短時間で照射が可能 —
2022年06月22日
住友重機械工業株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:下村真司、以下「住友重機械」)は、開発中の次世代陽子線治療システム(*1)のビーム試験を西条工場(愛媛県)で実施し、所定の照射性能を達成することを確認しました。これにより、陽子線照射時間の短縮、設備導入に必要な建屋体積の低減、患者位置決めのシンプル化を実現します。
【陽子線治療の3つの課題】
1.呼吸性移動臓器への照射
呼吸によって移動する臓器のがんは、世界のがん症例数の20%以上を占め、その割合は増加傾向にあります。(*2)陽子線治療は2022年度の診療報酬改定で、大型の肝細胞癌、肝内胆管癌、局所進行膵癌または大腸癌術後局所再発に係るもの(いずれも切除不能のものに限る)に適用範囲が拡大されました。(*3) 既存の陽子線治療では、肺や肝臓、膵臓などの呼吸によって移動する臓器を精度よく治療することが課題でした。動く臓器を高い精度で治療するには、呼吸による臓器の移動を低減しながら、より短時間で陽子線を照射する必要があります。
2.陽子線治療システムの導入には、大きな建屋体積が必要で病院内の設置にあたり障壁に なります。
3.陽子線治療では、高精度な患者の位置決め作業が必要です。この作業に時間がかかり1日に治療可能な患者数が限られています。
【次世代陽子線治療システムの3つの特長】
1.超電導サイクロトロン(*4)と超高速スキャニング(*5)技術で陽子線の照射時間を3分の1に短縮できます。超電導サイクロトロンから1000 nAの陽子線、超高速スキャニング技術による0.1秒のエネルギー切り替え、最大100 m/sのスキャン速度、これらを組み合わせることで短時間照射が実現します。短時間照射により、1回の息止めの間に照射が完了し、動く臓器を精度よく治療可能になることが期待されます。
2.シングルルームに最適なシステムデザインの採用で建屋体積の約30%削減が実現できます。建屋の建設費用低減と、工期短縮による早期の治療開始が期待できます。
3.360度ガントリと大視野コーンビームCT(*6)の採用で患者の位置決め作業がシンプルかつ高精度になります。 これにより治療時間の短縮に寄与します。
【ビーム試験について】
ビーム試験は当社西条工場に新設された加速器アプリケーションセンターで実施しました。エネルギー切り替え時間、スキャン速度、ビーム位置精度などの主要な照射性能を試験し、所定の性能を確認しました。実際の標的を模擬した総合的な照射試験を実施し、照射時間の短縮を検証しました。
住友重機械は今後も、健康で長生きできる社会 の実現を目指して、がん治療領域の製品開発に取り組んでいきます。
(*1) 次世代陽子線治療システムは未承認医療機器です。
(*2) 出典: “Global Cancer Observatory – IARC”
(*3) 出典: 「個別改定項目について – 厚生労働省」
(*4) サイクロトロンは大強度と連続ビームを特長とする陽子加速器です。
(*5) スキャニング照射は、がんの形状に合わせて細い陽子線を走査することで、がん周辺の正常組織や臓器へのダメージを低く抑える照射法です。
(*6) コーンビームCTは、ガントリを回転させながらX線撮影を行うことで、3次元画像を取得する撮影法です。