進化しつづける
サイクロ減速機
減速機はモータ発達と共に普及した装置です。モータの回転をそのまま活かすメカニズムでない限りは、なんらかの減速装置が必要で、モータのあるところ減速機ありといっても過言ではありません。誕生以来、70年以上も当社のコア技術の一つをなす減速機。その存在感は揺らぐことなく、新しい市場も生まれています。
タフでメンテナンスも容易。
減速機とは、モータの回転速度を最適な速さに減速するとともに、回転力を高める装置のこと。モータとそれによって動く装置の間に減速機を設置することで、必要なトルク、回転速度を得ることができます。ロボットや、工場搬送ラインなどの産業機械から、船舶のスクリュー、飛行機のプロペラなどにも幅広く使われます。
減速機構は歯車を使うものが多いのですが、一般的な歯車(インボリュート歯車)は噛み合い率が限られているため、衝撃によって歯の摩耗や折損が頻繁に生じます。インボリュート歯車の替わりに、独特の波形形状により、滑らかな転がり接触を実現する特殊な歯車(曲線板)を用い、衝撃荷重を多くの歯に分散して吸収するように設計されたものが、サイクロ減速機です。素材には高炭素クロム軸受鋼などが使用されており、タフで長寿命であるのが最大の特徴です。
当社の減速機生産は、明治44年(1911)に遡ります。昭和12年(1937)にはドイツ・サイクロ社と技術提携し、日本初のサイクロ減速機を世に送り出しました。以来、70年以上に及ぶ技術革新を経て、いまやサイクロ減速機は「減速機の代名詞」とも呼ばれるようになりました。
ドイツ・ミュンヘンの技師ローレンツ・ブラーレンが発明したサイクロ減速機は、第2次世界大戦中は戦闘機の脚の出し入れにも使われたという記録が残っています。それまでの油圧アクチュエーター(駆動装置)よりも堅牢性が高く、油漏れによる不具合が少なく、修理しやすいことなどが利点でした。その長所は現代にも生きています。
歯車を2枚ずらして重ねる。
そのアイデアが装置のコンパクト化につながる
その後のサイクロ減速機の歴史は、重量や外径のコンパクト化を一心に目指すものでした。
コンパクト化に最も大きな影響を与えたのは、1970年代の「2枚差歯形」という新機構でした。同じ歯形の歯車を位相をずらして重ねることで、噛み合い本数を増やすことができ、動力伝達の効率性と堅牢性を向上させることができたのです。
同一の出力回転数で比較すると、1965年の1枚差歯形と、2001年の2枚差歯形のサイクロ減速機では、重量が5分の1、枠外径が半分の大きさになっています。
もちろんコンパクト化のためには、歯車の素材改良や、潤滑性を高めるための表面加工精度の向上、コンピュータによる最適設計技術など、細部の技術革新も大きく貢献しています。当社のサイクロ減速機は累計200件以上の特許群をベースにした、高度な知的財産ということができます。
減速機が小型になることで、産業用ロボットの関節など、精密な部品にもサイクロ減速機が用いられるようになりました。
グローバルに広がるマーケット。
風力発電でも注目
現在、当社のサイクロ減速機は、世界50数カ国250カ所の拠点において、お客様の需要に応じた多品種の生産・販売が行われ、文字通りのグローバル商品に育っています。初号機の生産から70年以上の月日が過ぎましたが、技術革新に終わりはなく、新しい需要分野も次々に生まれています。
その一つが風力発電機のマーケットです。再生可能エネルギーの見直しで、世界の風力発電容量は大きく増加することが期待されています。風力発電では風向きに沿って風車本体を小まめに旋回すること(ヨー駆動)が欠かせません。また風の強さにあわせてブレード(羽根)の角度を調節するピッチ駆動も重要な役割を担っています。ナセル(発電機などを格納する部分)内で行われるこの二つの回転制御はサイクロ減速機の得意とするところです。
当社は、サイクロ減速機などを用いたヨー駆動用減速機をいちはやく商品化するなど、風力発電機分野での存在感を高めています。信頼性が高くメンテナンス性にも優れたサイクロ減速機は、次世代のエネルギー需要をも支えているのです。
- ※記載内容は、すべて取材当時のものです。