切らずに治す。
がん治療の最先端
日本では、今や国民の2人に1人はがんを患い、3人に1人はがんで亡くなると言われ、がん対策は国家的な課題となっています。放射線治療はがんの3大治療法の1つですが、その一種である陽子線によるがん治療が今、脚光を浴びています。陽子線がん治療は副作用が極めて少なく治療効果に優れる最先端のがん治療法です。住友重機械が製造した陽子線治療システムは、今、がん治療の現場を牽引しています。
痛みがなく、体にやさしい
陽子線がん治療
近年、がん治療の現場で脚光を浴びるようになってきた陽子線がん治療。その特長のひとつは、従来の外科手術と比べ、患者の肉体的負担を大幅に軽減し、QOL(Quality of Life:生活の質)を維持しつつ、日常生活を続けながらの治療が可能になるということです。陽子線には予め設定した特定場所において大きなエネルギーを発して消滅する、ブラッグピークという物理特性があります。この特性を生かして、がん病巣の周囲にある正常細胞にほとんどダメージを与えずにがん病巣のみに線量を集中させることが可能です。このため従来治療法よりも優れた治療効果を得られると共に、重要臓器の近くにある病巣にも照射できるため、これまで完治が望めなかったがんも治せる可能性があります。これまで、頭頚部がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がん等において高い治療効果を示しています。
現在、国内では7カ所の陽子線治療施設が稼動し、2014年には10カ所になる予定です。日本は施設数、技術力の面で世界をリードする存在であり、現在では、欧米・アジアを中心とした海外においても急速な施設の立ち上がりを見せています。
培われた加速器や
構造物の設計・製作ノウハウ
陽子線治療システムは、陽子線を発生・加速させるサイクロトロン(円形加速器)、陽子線を治療室へ送るビーム輸送装置、陽子線を任意の角度から照射する回転ガントリー照射装置、位置決め用X線画像撮影装置などから構成されます。
サイクロトロンによって光速の7割近くにまで加速された陽子線を対象疾患に応じて任意方向から照射するために電磁石が取り付けられた回転ガントリーと呼ばれる構造物を治療室の裏側に設置します。回転ガントリーは直径約10m、重量約150tの鉄鋼構造物です。
こうした陽子線治療システムの製造には、加速器や大規模構造物の設計、製造技術が必要です。当社が他社に先駆けて実用機開発に成功したのは、鉄鋼構造物の設計、製造ノウハウに加え、荷電粒子を加速させる加速器の設計・製造を1970年代から行ってきたためです。1997年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院に病院設置型では日本初の陽子線がん治療装置を納入し、医療機器として第1号の承認を受けました。さらに現在、国内外から受注を獲得し、鋭意製作に取り組んでいます。
さらなる技術開発、
小型・低コスト化への挑戦
陽子線がん治療をさらに普及させるためには、さらなる装置の技術開発と小型・低コスト化が必要です。
サイクロトロンにて発生・加速された陽子線は連続ビームであり、強度が強いという特長があります。この特長を生かした照射技術の開発を国立がん研究センター東病院と共に進めています。1回あたりの治療において大きな時間を占める患者位置決めの高精度化、迅速化のために先端画像診断機器と組み合わせたシステムを開発しました。こうした開発により、病院と患者双方にとって有益なシステムにしていくことを目指しています。
社会医療法人財団慈泉会相澤病院(長野県松本市)には世界で初めて、サイクロトロンと回転ガントリーを同じ平面ではなく、上下に配置する省スペース型システムの納入を予定しています。このシステムは都市部など敷地面積に制限のある場所にも設置が可能となり、今後の陽子線がん治療設備のモデルとなることが期待されます。
当社は世界的に増加している陽子線がん治療を望む声に対して、お客様の声を聞きながら、装置のさらなる技術開発に邁進しています。
お客さまの声
陽子線がん治療を望む患者さんは着実に増えています。増加の背景には生命保険の先進医療特約の適用ということもありますが、陽子線がん治療には従来のX線治療にはない明確なメリットが見込まれ、私たち臨床医がお勧めしているからです。
特に強くお勧めするのは従来のX線治療よりも治療効果が格段に高いがん、たとえば頭頚部にできた悪性黒色腫のようながんや一部の肺がんです。また、X線治療で懸念される2次がん発生リスクが少ないと考えられることから小児がんにはぜひとも使うべきです。通院治療が可能という点からは現役世代のがん治療にも大きなメリットがあります。体力の低下した高齢者の治療にも適しています。
今後は、治療の精度を上げる一方で治療に必要なステップや手間を減らすこと、ある程度の進行がんに対応できるようにすることなどが求められます。それらの技術開発は医療スタッフと住友重機械の技術者がさらに協力し合って取り組まねばならないものと思っています。
- ※記載内容は、すべて取材当時のものです。