Vol.7

不良、無駄、面倒ゼロ
への飽くなき挑戦

プラスチック製品の成形法として一般的な射出成形法。樹脂を溶かして金型内に圧力をかけて押し込み、型に充填して成形します。デジタルカメラのプラスチックレンズから自動車バンパーなどの大型部材、複雑な形状の製品を大量かつ低コストで生産するのに適しています。住友重機械の全電動式射出成形機は世界トップクラスの実績があります。10年以上にわたる省エネに向けた取り組みを評価され、平成24年度「第33回優秀省エネルギー機器表彰」では最新製品「SE-EV」シリーズが経済産業大臣賞を受賞しました。

電動化がもたらした
省エネ・精密化・高生産性

住友重機械の射出成形機の歴史は、40年以上前に遡ります。初号機は乳酸菌飲料の小さなプラスチック容器を量産するための専用機として開発されました。射出成形のプラスチック容器は、ガラス瓶の容器よりも早く大量にかつ低コストで生産することが可能で、飲料製品を全国津々浦々に広めるための必須条件を満たしていました。この機械は、千葉市稲毛区にある工場に今も誇らしく展示されています。

当時は成形機の駆動源は油圧が基本。しかし1990年代に電動化が進み、現在では国内メーカーの製品は電動化が当たり前になっています。電動機は油圧機に比べ、射出・型締のタイミングに合わせて機構を動かせばよいので全体として省エネ性能が高いのが特徴です。サーボモータで位置制御を精密に行えるのもメリットの一つです。

住友重機械の全電動機は1996年の「SE-S」シリーズが端緒。その後、性能向上に取り組み続け、その歩みは「Zero-Story」と呼ばれています。「Zero」は生産現場で常に発生するバリなどの「不良 Defects」、金型メンテナンスなどの「無駄 Loss」、さらに段取り設定などの「面倒 Faults」を可能な限りゼロに近づけ、生産性を限りなく高めることを意味しています。

成形プロセスの革新「Zero-molding」

2008年に登場した「SE-DUZ」シリーズには革新的な成形プロセスである「Zero-molding」が搭載されました。サーボモータをコントローラで制御することによって、材料を押し出すスクリュの制御がより精密に行えるようになります。材料が多すぎるとバリが発生し、少なすぎると金型の一部に材料が行き渡らなくなりますが、Zero-moldingの機能の一つ「FFC: Flow Front Control」では、こうした充填バランスを最適化することができます。

また、型締工程においても、成形機に搭載されたアルゴリズム「MCM: Minimum Clamping Molding」が必要最小限の型締力を検出することで、より低い型締力での成形が可能になりました。作業工程あたりの電力消費量を抑えるだけでなく、同じ作業をこなすため低出力の機械を導入することができ、工場全体の経費および電力使用量の節減につながっています。

機械構造の進化により
消費電力25%減を実現

こうした「Zero-molding」の考え方をより発展させたのが2011年リリースの「SE-EV」シリーズです。

同シリーズのMCM機能をより有効にするために、金型を締め付ける可動盤の姿勢保持を改善しています。

従来は射出装置のノズルを可動盤に押しつけたとき一方向に反力が生まれ、それがモーメント力となって固定盤の姿勢に影響を与えていました。僅かな傾きですが、この固定盤の姿勢変化が無駄な型締力の一因となります。「SE-EV」ではこの反力をノズルに対して、対称・均等な力で受けるよう機構を改善した結果、固定盤の姿勢変化を極限まで抑えることができるようになりました。その分より小さな力で型締を行うことができます。

また、可動盤を動かす機構部分でも従来の「すべり案内」から「ころがり案内」へとガイド方式を変えることで、ガタの影響による姿勢変化を75%以上低減しています。今回導入されたころがり案内にはあらかじめグリースが封入されているので、金型周辺にグリースが飛び散ることがなくなり、作業時・メンテナンス時の環境改善が大きく改善しています。排出グリース量は従来機の約半分になりました。

これらは省エネルギー化のための技術としてはごく一部ですが、その他サーボモータの更なる効率化などの新技術を搭載することで、従来機に比べ運転時の消費電力や年間CO2排出量は25%改善しました。

タッチパネルでより直感的に操作できる

平成24年度「第33回優秀省エネルギー機器表彰」

「SE-EV」ではオペレータの操作性を改善する工夫もされています。タッチパネルによる設定作業は、ピクトグラム活用でより直感的になり、また一つの画面で一連の工程作業を完了できるようになり、ミスや設定漏れの軽減が期待できます。駆動部における射出圧力・型締力の最小化に加えて、こうしたマンマシンインターフェイスの改善も、製品としての大きなアドバンテージといえます。

住友重機械の射出成形機は、2004年には累計出荷台数4万台を達成。自動車、精密機械、医療分野などに広く使われ、最新型の「SE-EV」シリーズもすでに1000台近く(2013年2月現在)販売しています。10年以上にわたる省エネに向けた取り組みを評価され、平成24年度「第33回優秀省エネルギー機器表彰」では最新製品「SE-EV」シリーズが経済産業大臣賞を受賞しました。

プラスチック成形工場の真ん中で、1サイクル5~20秒というハイスピードで働く射出成形機。その姿は一見無骨ですが、意外と繊細な精密技術の集大成であることが、お分かりいただけたのではないでしょうか。

  • 記載内容は、すべて取材当時のものです。

住友重機械のこだわり